坂本洋治郎(さかもとようじろう)さん(写真右)/神奈川県で大学時代を過ごし、東京の印刷会社に3年勤務した後、小売業を営む実家のために、2020年にUターン。2022年6月にカフェ&バーFromO(フロムオー)をオープン。
山本晴也(やまもとせいや)さん(写真中央)/北海道で大学生→東京でホテルマンとして勤務した後、2021年に大鰐町にUターン。野球が得意。2022年カフェ&バーFromOを坂本さんと共にオープン。
嶋津将太(しまつしょうた)さん(写真左)/千葉県で建設会社に就職のちフリーランスの大工になる。2022年8月にUターンし、カフェ&バーFromOに参画。お店のオープン前のリフォーム時は、オンラインで親方として参加していたそう。
青森県南津軽郡大鰐町に生まれ、保育園から中学校まで同級生として過ごした3人。その後、進学や就職で県外に散らばりましたが、仲間で集まる度に「大鰐町はこうしたらもっと良くなる」と語り合うこともしばしば。そして「外から言ってるだけでは何も変わらないから」とUターンし、YouTubeチャンネル「ワンダーワンド」を立ち上げ、飲食店を始めるまでの店内のリフォーム動画などを配信しはじめました。そして無事カフェ&バーFromOを大鰐温泉駅前にオープン。カフェの営業をしながら次に挑戦したのは、地元のお祭り「大鰐温泉ねぷたまつり」を盛り上げるためのクラウドファンディングでした。
YouTubeチャンネル「ワンダーワンド」https://www.youtube.com/@user-mj4pe6zc2m
インスタグラム「ワンダーワンド」https://www.instagram.com/wonder_wando/
インスタグラム「FromO」https://www.instagram.com/from_owani/
インスタグラム「雪国」https://www.instagram.com/yukiguni_owani/
地域課題に取り組む情熱
明治・大正時代から津軽の奥座敷と呼ばれ、多くの湯治客で賑わった温泉の町・大鰐町。温泉と共に有名なのは、大正時代に作られた競技スキーの聖地と言われる阿闍羅(あじゃらやま)のスキー場。大鰐町からは、多くの五輪出場者が輩出されてきました。
そんな大鰐町で育った坂本さん、山本さん、嶋津さんは、高校卒業と同時に大鰐町を離れました。
「20歳ぐらいの時から、仲の良い友達5人組でよく話していたんです。大鰐町はどうしてこういうことをしないんだろうね。こうしたらいいのにね。それで、26歳ぐらいのタイミングで、外から言ってるだけでは何も始まらないから、戻って何かしてみようとなったんです。」(山本さん)
「大鰐町は人が減ってきて、後継者がいないという課題を聞いていたので、後継者を見つけて繋いであげる事業もいいかも、と話していました。それから、なくなった駄菓子屋を再開するという話もありましたね。」(坂本さん)
そんな中、飲食業に着地した理由を伺いました。
「最初はやはり参入障壁の低い飲食業がいいと思ったんです。もちろん、その分難しい業界です。僕たちは皆違う分野でのキャリアがあって、企業の広告宣伝、接客、大工、それぞれの特性をうまく活用できるのは飲食業ではないかと考えました。」(坂本さん)
がんばっているところを見て応援してもらう
2020年にUターンしていた坂本さんが、最高の立地である、大鰐温泉駅から見える位置にある築50年の空き物件を見つけました。
前職の引継ぎを終え、2021年に山本さんがUターンしてきます。二人は、空き物件をただきれいにリフォームしてオープンするだけでは他の飲食店に埋もれてしまうため、リフォームの素人として作業に挑戦し、その様子をYouTubeで配信することにしました。
「オーディションからテレビで見せて、デビューした時にはファンがいるというNiziプロジェクトが流行っていたので、参考にしました。リフォームのDIYの様子を見てもらって、オープンした時にはすでに知ってもらっているのが理想でした。」(山本さん)
宣伝効果も見込んでの試みでしたが、動画作りは初めての二人。
「DIY作業が見やすい角度にカメラを置かないといけない、とか、予想以上に時間がかかりましたね。」(坂本さん)
撮影した素材を10分の動画にまとめる編集作業には、24時間かかったといいます。その苦労の甲斐あって、動画の本数が上がる度に「いいね」の数も、フォロワー数も増えていきました。
「そこに時間をかけたせいで、プロの大工さんに頼めば2ヶ月で終わる工事に、約半年かかってしまいました。でも、工事中、実際に声をかけてくれる人もいましたし、YouTubeで知ってくれた人がたくさんいました。」(坂本さん)
リフォームの期間は、認知度を上げるために必要な半年間だったのかもしれません。2022年6月のオープン初日は、お店の外にも人が溢れて、大変な賑わいだったそう。
「はじめの1ヶ月は、自分たちが不慣れだったこともあり、お客様を待たせたりしてしまいました。2ヶ月目に入ると慣れてきて、お客様を待たせることなく作業ができるようになりました。」(坂本さん)
2022年8月、千葉県で大工として働いていた嶋津さんが合流しました。
「半年遅れて合流したので、カフェ業務や動画編集まで覚えるのに苦労しました。」(嶋津さん)
「自分たちは半年かかって覚えた仕事を、1週間で実践的に教えたので、大変だったと思います。」(坂本さん)
3年ぶりに開催された大鰐温泉ねぷたまつりを見て
夏になると各所の大きな祭りで盛り上がる青森県ですが、大鰐町でも例年「大鰐温泉ねぷたまつり」が8月1日から1週間開催されます。
コロナ対策で中止されていた祭りが3年ぶりに開催されると、ワクワクしていた3人ですが、2022年大鰐温泉ねぷたまつりに参加したねぷたの台数が7台しかないことに衝撃を受けます。
「自分たちが子どもの頃は30台近いねぷたが練り歩いていたのに...。」
お囃子、太鼓の練習をして、本番を迎えた時の高揚感、終わった後に食べたアイスの味、鮮明に覚えている自分たちにとっての「青森ならではの記憶」を味わえない子どもが増えている現状。
「Uターンして気づいたことでしたが、子どもたちがねぷたを見るだけだともったいないと思ったんです。たくさんの子どもに、ねぷたに参加する楽しさを知ってもらいたかったんです。」(山本さん)
「自分が住んでいる地域にねぷたの団体がなくなって、子どもが参加できなかった」という声も聞いたため、町内や地域の垣根を超え、誰でも参加できる有志のねぷた会が必要ではないかと考えます。
ねぷた祭り参加のためクラウドファンディング
2023年1月には有志のねぷた会「ワンダーワンドねぷた会」を設立し、実際お祭りに参加するためには何が必要か、様々な人にヒアリングを続けました。その結果、ねぷたの骨組み、太鼓、絵師、資金、などが必要と判明。
「道具は、人手不足や高齢化でやめてしまった団体から譲り受けることが多かったです。みんなねぷたが大好きな人たちなので、大変だろうけど頑張れという感じでした。道具を譲ってくれるだけでなく、ねぷたの制作や運行の手伝いまでしてくれました。」(坂本さん)
2023年5月から始めたクラウドファンディングでは、目標額の100万円を2週間で達成。直接FromOにお金を持ってきてくれる方もいるなど、多くの方の支援を集めました。
「僕たちの取り組みにたくさんの方から関心を持っていただけていると感じ、率直に嬉しかったです。また、目標金額以上の支援が多くの方からが期待の大きさだと感じ、なんとしても成功させなくてはという想いがより強くなりました。」(坂本さん)
ねぷた絵は、大鰐町出身の若手絵師・松岡泰仙さんに依頼しました。
「今回のねぷたの鏡絵(表面)はクラウドファンディングに参加してくれた方の手形を押してねぷた絵が完成するというもので、完成がどんな感じになるのか未知数でした。またいろんな団体や人から道具や知識を集結して出来上がっていくねぷたは見ていて、とてもワクワクしました。このねぷたを大鰐町の人たちに見せる日が近づくと、どんどん楽しみな思いが大きくなっていきました。」(坂本さん)
青森の魅力From Owani
クラウドファンディングという話題性や、地元の旅館でお祭り参加をツアーとして売り出したこともあり、お祭り初日の2023年8月1日、およそ60人もの参加者が集まりました。ワンダーワンドねぷた会の初陣は大成功でした。
「多方面で取り上げてもらったおかげもあって、他の団体に比べて大人数の参加者になってしまいました。でも自分たちの団体だけ盛り上がることは、僕たちの本来の目的ではないので、他の団体とも足並みを揃えて楽しめるよう、2024年の参加に向けても動いています。」(坂本さん)
また、2024年1月からは、大鰐温泉スキー場での食堂にも参入(店名は「雪国」)。同級生の祖母がオーナーだったことから、嶋津さんがお願いして出店できることになりました。
「昨シーズン、レストランが足りないという問題があって、昨年から計画していました。スキー場用にメニューも開発しましたが、他の食堂とお客様を取り合わないよう、かぶらないメニューにしました。」(嶋津さん)
3人が、地元の方にとても気を遣って活動しているのが伝わってきます。
「小さな町なので、一人勝ちできないですし、できたところで、たかが知れてると思うんですよね。町全体で変わっていきたいんです。」(山本さん)
2ヶ月に1回はFromO内で、音楽イベントを開催する他、店に入ってすぐ左手の一角にはギャラリーがあります。ここでは、月替りにクラフト作家を替え、品物が回転するため、毎月楽しみに訪れるお客様も多いそう。
また、2023年9月には、お店の前の通りや空き地、空き店舗を活用したイベントを企画しました。親子で楽しめるワークショップと飲食店だけを集めたイベント「わぁんどすとりーと」です。似顔絵を描いたり、クッキーに絵を描いたりするワークショップも好評で、2024年5月に2回目の開催を予定しています。
3人に青森に帰ってきて良かったことを伺うと、Uターンならではの答えが。
「東京で働いている時は、大鰐町に帰省できるのが1年に1回でした。生きているうちに親に会えるのは、あと30回ぐらいかもしれない、と考えながら帰省していたんです。それがUターンしてからは毎日会えます。」(山本さん)
「慣れた場所に帰ってくる、それだけで価値があると思います。自分にとってはここが、心の拠り所。」(坂本さん)
「帰れる場所があるっていいですよね。自分はここに住んで、関東に1年に1回遊びに行くぐらいがちょうどいいです。」(嶋津さん)
「新しいことにチャレンジするのが楽しい。大鰐町に少しでも貢献できてると思えることがやりがい」と語る3人。公園を作りたい、宿泊業やスキー場活用など、3人の野望は膨らんでいるようですが、野望とは言ってもすべて地域課題と結びついています。
3人が若さと情熱で、DIY精神で地域課題に体当たりする姿は、応援したくなるだけには止まりません。FromOのOは大鰐のO。「大鰐町から」確かに、強い共感を呼び起こしています。